人によっては人生の質を大きく変えると思われる「Even G2」の文字起こし機能
スマートグラスの真骨頂とも言えるのが、現実世界の情報をリアルタイムで処理し、視界に提示してくれる機能です。日常使いに特化したEven Realities社のスマートグラス「Even G2」には、目の前の会話を文字化してスクリーンに表示する強力な「会話サポート」機能が搭載されています。
単に音声をテキスト化するだけでなく、AIが文脈を理解して様々なアシストをしてくれるという、まさに次世代のデバイスを感じさせる仕上がりです。今回は、筆者が実際に日常生活の様々なシーンでEven G2の会話サポート機能を使い込み、その文字起こし精度やラグ、そして非常にユニークなAI機能について徹底的にレビューしていきます。
驚異的な文字起こし精度とラグの少なさ
静かな家庭内での会話であれば、Even G2の文字起こしは固有名詞を除いてほぼ完璧と言える精度を誇ります。テレビの音なども、静かな環境であれば結構小さめの音量でもしっかりと拾って文字化してくれます。家電や券売機などの機械音声の聞き取りもとても優秀なため、そういったスピーカーから出る高めの周波数の声が聞き取りにくいと感じている人には、非常に強力なサポートツールになるはずです。
実用面で気になるタイムラグですが、感覚的には1秒程度と非常に優秀です。テレビの生中継の字幕放送より断然早く表示されます。一対一の会話で相手の口元と字幕を同時に見ていると若干の会話の遅れは生じますが、コミュニケーションにおいて問題になるレベルではなく、聴覚障害のある人にとってはとても力強いツールになるはずです。
このラグの少なさの秘密は、文字起こしの表示方式にあるのかもしれません。例えばGoogle Pixelの音声文字変換機能などは、発言全体をある程度聞き取ってから一気に文字化するパターンですが、Even G2の会話サポートは割とこまめに区切って文字起こしを画面に表示してくれます。この細かな更新が、体感的なラグの低さにも繋がっているようです。
ただの字幕じゃない!斜め上をいく「AIキュー」機能
Even G2には、ただ会話を文字起こしするだけでなく、「AIキュー」という非常にチャレンジングでスマートグラスらしい機能が備わっています。これは、会話中に出てきた言葉をAIが自動的に拾い上げ、視界に説明を表示してくれるというものです。
例えば、人物名などの固有名詞、専門用語、聞き慣れない単語などをピックアップして、簡単なプロフィールや意味を即座に教えてくれます。音声認識の聴き違えによって見当違いな結果になることも少なくありませんが、稀に全く知らない人物名や企業名などが出た際にサッと解説が出てきて理解に役立つことがあります。
お昼の情報番組を15分ほど視聴した際のAIキューの例 「Q&A」は問いかけに対する回答例、「キーワード」は専門用語などの解説、「人物紹介」はその名の通り会話中に出てきた人物についての説明がスマートグラスにポップアップ表示される
さらに面白いのが、質問を投げかけられた時などにAIが「回答例」を示してくれる機能です。筆者がNHKの大河ドラマを見ていた時のこと、「なぜもっと早う話してくれなかった」というセリフが流れてきた瞬間、Even G2の画面に「状況が非常に流動的であり、確実な情報が整うまで慎重に判断を重ねていたため、このタイミングでの共有となりました。」という、まるで優秀なビジネスパーソンのような言い訳の模範解答が提案されました(笑)。これが常に実用的かどうかは別として、AIが文脈を読み取ってアシストしてくれるという体験は非常に新鮮です。
なお、このAIキュー機能とライブ文字起こし機能は、設定からそれぞれ個別にオン・オフの切り替えが可能です。用途に合わせてどちらか1つだけをオンにしたり、両方を駆使したりと、柔軟な使い方ができます。
スマホアプリ側で議事録やタスク管理も自動化
Even G2の会話サポートは、グラス単体で完結するものではありません。スマートフォンの専用アプリが、ビジネスツールとしても非常に優秀な働きをしてくれます。
お昼の情報番組を15分ほど視聴して文字起こしした内容をAIが要約したPDF 会話サポートをオフにすると自動的に要約が始まるようで、すぐに要約が出来上がる
まず、会話のログはすべてEvenアプリ内に文字データとして残ります(もちろん削除可能)。それだけでなく、会話が終了するとAIが自動的にその内容の要約を作成してくれます。この要約データはPDFやWord形式、テキスト形式で書き出すことが可能なため、簡易的な議事録やメモとして保存することが可能です。また、要約前の文字起こしデータも同様に保存可能です。
さらに驚くべきことに、会話の内容から「今後のタスク」まで自動的にリストアップしてくれます。提案されたタスクの中から必要なものを選択すると、Evenアプリ内の「クイックリスト」(チェックボックス形式のタスクリスト)に直接保存することができます。会話しながら頭の中でタスクを整理する手間が省けるため、非常に実用的です。
また、アプリ側の会話履歴には「AIキュー」の専用タブもあり、会話中に表示された人物紹介やキーワードが分類されて記録されるため、後からそれらの情報を見直すこともできます。
コミュニケーションの壁を越える実用性
実際に自宅外で使ってみた際の実力もなかなかです。色々なシチュエーションで試してみました。
1.小さめの会議室での会議
これはほぼ良い形で文字化してくれました。特にあらかじめ頻出するようなキーワードや氏名、固有名詞などを箇条書きして(各キーワードの内容までは不要です)、スマホのEvenアプリの「会話サポート」にある「準備メモ」に加えておき、それを「会話サポート」を始める前に適用するとより精度が高まります。音声認識が苦手な固有名詞も拾いやすくなりますのでおすすめです。
また、3時間ほとんどぶっ続けで文字起こしが途切れることがない会議でも、Even G2自体のバッテリーは30%ほどしか消耗しませんでした。途中、一度だけ数秒間文字起こしが止まる自体はありましたが、そのまま放置しておくとすぐに動き出しました。会議室の大きさや発言者の声量などによる部分もあると思いますが、こういう用途なら十分実用できます。
2.お店や病院でのやり取り
パン屋の店頭でのやり取り
パン屋さんでのレジでのやり取りで使用してみたところ、店員さんの「PayPayで」という言葉を「定点で」と聴き違えたりするような細かなミスはあったものの、前後の文脈から会話の内容を理解するには十分すぎるレベルでした。前に並んでいた二人組の会話などは拾えませんでしたが、こちらを向いてしっかり話してくれる人の声は書き起こしてくれる感じです。
ただし、店員さんがマスクをして上品な小声の場合とか店内の遠くからアナウンス的に話しかけられるような言葉は厳しい印象があります。また、病院の診察待ちなどで使用した場合、やはり個人名はうまく聞き取ってくれず、聞き違えて似たような語感の言葉に置き換えることが多いので、そこは前述の「準備メモ」に名前を登録しておいたりすると少しはマシかもしれません。完璧とは言えないものの、聴こえにくい人のサポートとしては十分役立つはずです。
3.電車内でのアナウンス
電車の走行中でもアナウンスに関しては結構良い精度で書き起こしてくれます。もちろん、地名などは苦手ですので誤認識もよくありますが、ある程度知っている路線やあらかじめ想定している駅名であれば問題なく推測できると思います。余談ですが、英語のアナウンスは翻訳ではなく英文のまま書き起こしてくれます。
4.走行中の自動車内の会話やラジオ
車種や走行速度によるノイズの差はあると思いますが、走行中の自動車内での運転席と助手席での会話やラジオも問題なく文字起こしてくれます。ただし、ラジオと通常の会話が混在するとAIが混乱する可能性がありますので、会話の文字起こし精度を高めたい場合は喋りのあるラジオ(音楽は大きすぎなければ大丈夫だと思います)は切ると良いと思います。
5.全体的に
これまで使っている印象では、狭い静かな空間やしっかり話しかけられるシチュエーションにとても強く、広い場所で遠くから呼びかけられたり、店員さんのアナウンス的な喋りのようなシチュエーションは苦手な感じです。とはいえ、聴覚障害や難聴で家族との会話やテレビの視聴にも不自由するような方にとっては、コミュニケーションやエンタメ視聴の楽しみをガラッと変えてくれ、QOLを大きく改善するツールになるはずです。
35言語をリアルタイム字幕表示する「ライブ翻訳」
この「会話サポート」機能の延長ともいえるのが「ライブ翻訳」です。こちらは単純な文字起こしではなく、外国語を翻訳して日本語字幕表示してくれます。2026/4時点で35言語に対応しており、英語や中国語、韓国語といった比較的日本でも学習する機会のある言語だけでなく、日本人からすると学習するのにハードルが高いタイ語やアラビア語といった言語にも対応しています。
スマホアプリ側のライブ翻訳履歴
また、Even G2に相手の言葉が翻訳字幕表示されるだけでなく、スマホ側のEvenアプリには日本語で話した言葉も翻訳中の言語に翻訳して表示されます。そのため、相手にスマホアプリを見てもらえば、お互いの言語で話すだけで意思の疎通が可能です。
こういった機能は日常的に外国人と接触する機会が多い人や、外国人とコミュニケーションをとりたいという人にとってはとても役立つツールだと思いますし、海外旅行のハードルもグンと下げてくれるはずです。
通信データ量は1時間あたり150MB程度
約1時間、AIキューありの設定で会話サポート機能を使用したところ、150MBほどの通信データ量でした。発言の頻度によっても変わるかもしれませんが、会話サポートを3時間ほど使用(+ナビも15分ほど)使用した時で約500MBほどの通信データ量でした。
もちろん、Even G2以外のスマホのバックグラウンドプロセスもあるかもしれませんが微々たるものだと思いますので、会話サポート機能のみの使用ならおおよそ150MB/時間と推定して良いと思います。通信容量が低めの携帯プランを使用している場合は、使い所を見極めて使う方が良いかもしれません。
VRの世界でEven G2スマートグラスを使える?!
超マニアックな使い方ではありますが、本来このブログのテーマはVR、Meta Questということで、Even G2をかけた上からMeta Quest 3をかぶるという、ギーク過ぎる実験もやってみました。
話し相手がいないのでNetflixを視聴しましたが、Quest3はスピーカーから音が出るため、普通にライブ翻訳を使うことができました。スラングや銃声が飛び交うようなオンラインマルチゲームの世界での翻訳精度は未知数ですが、詳細な音量設定次第ではそれなりに使えるのではないかと思われます。
VRChatなどで1対1や少数での普通の会話であれば、会話サポートなりライブ翻訳もリアルでの体験同様に使用できると思います。また、それが良いことかどうかは別として、スマホやスマートウォッチと違いVRの世界にも通知が表示されます。
Even G2自体が大きめのメガネ(特に筆者のEven G2 Bは四角っぽい形状)なので、Meta Quest 3標準の接顔部パーツでは入らないと思いますが、筆者が使用しているサードパーティ接顔部(こちらの記事) ではなんとか収まりました。こんなマニアックな使い方を想定する人はあまりいないと思いますが…
まとめ
度無しレンズでも約10万円と高額なデバイスのため、誰にでもすすめられる製品ではありませんが、こういったコミュニケーションのサポートが必要な人にとっては良いツールだと思います。特に聴覚にサポートが必要な人にとっては、かなりおすすめできます。補聴器より安く、補聴器では音が聴こえても言葉として認識しにくい人にとってはより優秀とも言えます。
決して万能ではありませんが、今まで聴こえなかった声が見えるというのは画期的な体験で、字幕がないために鑑賞できなかった邦画なども楽しめるはずです。そういったサポートが必要な方やそのご家族、外国人との交流に関心のある方はぜひ家電店などで試してみてください。
Even G2ビギナーの方には下記の筆者作成日本語マニュアルもおすすめです!
vrgame-quest.hatenablog.com